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06年11月HPリニューアルに伴い、ブログタイトルもリニューアル。


by kgapk2004
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大英帝国という経験

大英帝国という経験_c0005235_2133332.jpg
島国として発達し、海軍を発達させる必要があった点
隣国との諍いが多く工業国として発達しながらも世紀に掛かる頃その限界に直面し
変換を迫られる点(イギリスは金融、日本はまだ??)
長い歴史をもつ王室が政治権力とは別に存在している点などなど
イギリスは日本と実に共通点がおおかろう国だと思います
その際にとられた悪しき植民地政策
(太古からある奴隷制度と区別するなら「特定の人種だけに限られた」奴隷制度)
はフォローのしようもないですが
ただもし日本の工業国としての全盛期が100年前だったら必然的に植民地経済に
のり出さざるをえなかった訳で、まぁその必要がなく
内需で十分としてたから鎖国もしていたんでしょーが
今日の便利な生活の原型は当時のイギリスの植民地政策のノウハウがあったればこそ
ともいえるわけで、そのへんは複雑なもんがありますね。。

しかし近代化の過程にあっていかにイギリスが激烈でかつ急進的だったかが
本書でよく分かります。内部にはスコットランド、アイルランド
外部にフランスや独立したアメリカ
植民地としてのカナダ、オーストラリア、南アフリカを巻き込んで
あの小さい島国にどんだけバイタリティがあったんだと驚く反面
搾取するだけした植民地問題を棚上げし得意の二枚舌(三枚舌)で
ナショナリズムを煽り、今日の民族紛争の種を植え付けておきながら
「野蛮な文明を開拓し文明を授ける自愛にあふれた国家」ってな言い分はかなり苦しいものが
ありますがww
(もっとも国土の大半を支える下層農民はそんな奴隷の存在すら
長い間ほとんど知らされていなかったという事実もある訳ですが)
そんな7つの海を支配する大英植民帝国を日英同盟でロシアに対抗した同士の
日本が20世紀中にズタズタにして
さらに同一規格大量生産で半世紀後には工業国の最先端として20世紀後半をリードし
同じ島国で長い歴史の皇室もあり、なのに地球の表と裏ぐらい離れている
というのが面白くも奇妙な関係だなぁと改めて思います。

あとは女王ひいては皇室のアイデンティティの変化。
国王は君臨すれども統治せずとは有名なイギリス王室のスタンスですが
ヴィクトリア女王期に政治的かかわりより植民地も含めて女性の王様として
その私生活や家庭生活を切り売りすることで政治の内実よりも
イメージとして人々に信仰させる対象となった、その転換が面白い
いまのイギリスの王室に延々とつづく、そして日本の戦後の皇室の
あり方にも影響を与えたであろうその原型が、このヴィクトリア女王期に見られるという。

本書はどーも奴隷というスポットに焦点を当てがちなんで加害者の面に目がいきがちですが
世界をほぼ制覇した大帝国のその力の源泉やそれゆえの苦労
それから現代我々が日常的に接してる公共施設(動物園、図書館。博物館)の成り立ち
紅茶や女性の社会進出など英国の魅力にもザックリ切り込んでいます。
ただこういう歴史ものはやはり先の時代から辿っていかないと不利だなぁと思う点は
カトリックやプロテスタント、あるいはローマ文明のけっこう深いレベルでの知識を
前提にしてないと全体の概要は困難だということ。
まぁ一冊の物語で言えば8章~13章くらいの部分を切り取ってるんだから無理もない話でもあるんですが。
by kgapk2004 | 2012-01-01 21:33 | ノンフィクション